じっくり考える力
スウェーデン王立科学アカデミーは10月7日、2026年のノーベル化学賞を、東京理科大学の硤合憲三名誉教授(76)と、フランスのパリ南大学のアンリ・カガン名誉教授(95)の2人に授与すると発表しました。受賞理由は「不斉有機合成における非線形効果および自己触媒作用の発見」です。硤合さんの研究は、分子の左右の違いに関わるわずかな偏りを増幅させる反応を明らかにし、生命の起源を考えるうえで重要な謎の解明につながる可能性を示しました。
私が言うのもおこがましいことですが、ノーベル賞を受賞するということは、本当にすごいことだと思います。長年にわたる研究が世界的に認められたことはもちろん、その成果が、生命の成り立ちに関わる大きな謎の解明につながる可能性を持っていることにも驚かされます。
さらに、私が興味を持ったのは、硤合さんの人柄です。テレビのインタビューからは、朴訥で飾らない人柄が伝わってきました。研究することそのものが好きで、化学に限らず、文学の分野であっても研究者を目指していたかもしれないと語っていたことが印象に残っています。また、高校時代にはバスケットボール部で活躍されていたそうです。旧友の方は、硤合さんについて、勉強が好きというよりも、一つのことをじっくりと考え、深く掘り下げていく方だと話していました。
そんな硤合さんの姿を見て、私はふと思いました。子どもたちの力を伸ばすために、私たちは何を大切にすればよいのだろうか。
現在、教育は大きな転換期を迎えています。知識や技能だけでなく、思考力・判断力・表現力、そして主体的に学び続ける力など、さまざまな力を育てることが求められています。企業においても、知識や技術だけではなく、課題に向き合う姿勢や周囲と協力する力などが重視されています。
もちろん、学問の知識を身につけることは大切です。しかし、それと同じくらい、一つのことにこだわる力、すぐに答えが出なくても粘り強く考える力、地道に努力を積み重ねる力も大切なのではないでしょうか。こうした力は、テストの点数だけでは測りにくいものです。それでも、子どもたちの中にある小さな興味や疑問を見逃さず、試行錯誤する姿を認め、応援していくことが、将来の大きな可能性につながるのだと思います。 今回、教職員の朝会でも、硤合さんのことをホームルームなどで生徒たちに紹介してほしいとお願いしました。この話が生徒たちにどのように伝わったのか、すぐに目に見える変化が現れるわけではないかもしれません。しかし、誰かの生き方に触れたことが、自分の好きなことを見つけたり、興味を持ったことを深く考えたりするきっかけになることがあります。生徒たちが目の前の結果だけにとらわれず、自分なりの問いを持ち、じっくりと考え続ける。その先に、本人もまだ気づいていない可能性が広がっているのではないでしょうか。